第27回 スミレの仲間
蒸し暑い日が続きますが、皆様お元気でお過ごしでしょうか。今回は、万葉の昔から日本人になじみの深いスミレをご紹介します。
春先、山道の脇に、田圃のあぜ道に、住宅地の庭先や道路の側溝の隙間にと、いたるところでそっとつつましやかに咲いているスミレを見かけます。世界中でも日本ほど自分の周辺に何種類もの自生のスミレを見る国はないといわれています。その種類は、基本種だけでも57種、亜種、変種、自然交配種などを合わせると300種類にもなるそうです。
ご紹介するのは私が見かけたスミレだけで、ごく一部の限られたものですが、ご覧になってください。これからも春に 屋外に出るたびに興味を持って、いろいろな種類に出会いたいと思っています。

スミレ」  和名 「菫」

日本を代表するスミレで、スミレ愛好家の間では、スミレの総称と区別するため、学名の「マンジェリカ」で呼ばれています。分布が広く個体数も多く、旺盛に生育して最も親しまれているスミレです。濃い紫色の花、切れ長の葉、地面からすっと立ち上がって咲く姿
に、いかにも日本のスミレというオーソドックスな印象を受けます。実は原産国は中国の旧満州なのですが、今では、これを日本のスミレの代表とするのに誰も異論はないと思います。
エイザンスミレ」  和名 「叡山菫」

広げると鳥の足状になる切れ込みのある葉と、ふっくらした大型の花弁が特徴的です。湿気のある半陰地の樹林下を好んで生育します。花弁の1枚1枚が大きくやわらかな雰囲気で、スミレの中でももっとも気品を感じさせる花だと思います。色は淡い紅紫色がほとんどですが、紅の濃いもの、紅色のすじの入ったもの、白に近いものなどさまざまです。
タチツボスミレ」  和名 「立坪菫」

日本全土に広く分布し、海岸から亜高山まで、草原や路傍、明るい樹林下など日当たりのよい場所を好んで生育します。葉柄の根元にある托葉と呼ばれている葉が櫛の歯型をしているのが特徴です。分布が広く個体数も多いため花の色、大きさ、葉の形に変異が多い種です。個体数でいえば「スミレ」よりも身近に1番多く見られる種かもしれません。

キスミレ」  和名 「黄菫」

輝くように鮮やかな黄色の花と柔らかなハート型の葉が美しいスミレです。他の花弁に比べて唇弁が小さいのが特徴です。九州、四国、東海地方と太平洋側にとびとびに火山中心とした地域に生育しています。キスミレの好む森林を造らないやせた火山灰地の草原や疎林であることと、そのあたりで毎年行われる広範囲の野焼きが強い味方となって、毎年美しく咲かせます。野焼きの後の黒々とした土の上で、焼け残ったカヤの間に群生する様は見事です。
ニョイスミレ」  和名 「如意菫」

別名をツボスミレといい、茎を斜め上に伸ばし、直径1cm前後の小さな白い花を咲かせ、唇弁に緻密な紫色の筋がはいっているのが特徴です。ほぼ日本全国、田のあぜ道や沢沿いの林の中など、少しの湿気があればどこでも生育します。由布岳のふもとに咲いていました。
マルバスミレ」 和名「「丸葉菫」

葉が丸く、丸みのある白い花を咲かせるのが特徴です。青森から九州まで主に太平洋側の畑周辺、丘陵、山地の日当たりのよいところを好んで生育します。清楚なスミレの中でも純白のこの花ははっとするほど印象的です。唇弁の紫色のすじも鮮やかに見えます。
タチツボスミレとマルバスミレ
サクラスミレ」 和名「桜菫」

花が大きく美しいので「スミレ界の女王」の異名があります。名前のとおり、花弁の先端が桜のようにへこんでいるのが特徴です。北海道から九州まで山地の日当たりのよい場所のせいいいくします。色は桜の色とは違いますが、淡い紅紫色の優しい花です。
コスミレ」 和名「小菫」

全体に無毛で、葉は丸みをおびた長三角形~長卵形で、花の距が太くぼってりしているのが特徴です。北海道から屋久島まで分布し人家や耕作地周辺の日当たりの良い道ばたや土手に生育します。「スミレ」よりこじんまりしていて、葉がやや広めです。
サンインスミレサイシン」 
 和名「山陰菫細辛」


スミレサイシンの変種で、スミレサイシンより葉が長く先が細くなった大きなハート形で、花も大きいのが特徴です。
北陸地方以西の主に山陰地方の低山から山地のやや暗く湿り気味の林下や林縁に生育します。

この春寂地山に登った時に、見たことがない大きな葉のスミレがあるので、写真を撮って帰って調べました。花はすでにっ咲き終わりでしたが、かろうじて花の原型がわかるほどでした。その土地独特の種があることを実感しました。
ヒメミヤマスミレ」 和名「姫深山菫」

花は白色で、小輪、側輪と唇弁に紫のすじがあるのが特徴です。関東南部から九州、種子島まで分布し、ブナ林下、林縁の湿気の多い登山路傍によく育成します。小さな白い花びらの鮮やかなすじとオレンジ色の雌しべの色が印象的で、小さいけれども目を引きます。
マルバタチツボスミレ」 
 和名「丸葉立坪菫」


「タチツボスミレ」と「ニオイタチツボスミレ(ニョイタチツボスミレではない)の交雑種で、葉先が丸く、花も全体丸い感じです。このような交雑種は、2種類のスミレが自生するところでよく見られ、交雑種の方が親種より個体数が多くなっているケースもあるようです。
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